投資環境レポート
投資の視点:過去最高益を目指すわが国の企業収益
- 日銀短観9月調査では比較的堅調な企業収益状況が確認された。
- 為替円安、原油価格下落の効果を踏まえれば、収益は上方修正余地があろう。
- グローバル企業群の実質GDP成長率は中国のGDP成長率を凌駕。
- 今後グローバル経済の拡大の恩恵はゆっくりと国内に波及する見通し。
企業収益の改善傾向が続く見通し
2002年から始まったわが国の景気情勢はこの11月で戦後最長である「いざなぎ景気(1965/10-1970/7;57ヶ月)」を越える。今次回復局面の特徴は企業収益が拡大し続けている点にあろう。そのことは設備投資や雇用の拡大、あるいは株式市場の堅調さに反映されていると言えよう。しかし、足元では企業収益を巡る環境は不透明さがあるだけに、先行きの収益動向に注目が集まるところだ。
日銀短観9月調査によると、今年度の企業収益計画は大企業・全産業ベースで前年 度比+1.7%と小幅な増益に留まっている。また前回の6月調査と比較すると+0.8%と上方修正の動きは鈍い。しかしこれは日銀短観の特性と合わせて解釈する必要がある。中間決算直前の9月調査では、企業は年度計画に大きな修正を行わない傾向がある。中間決算が出そろったところで年間の収益を見直すため、日銀短観では次回12月調査で改めて確認する必要がある。そのため、9月調査では足元の業績に注目した方がよさそうだ。
今年度上期の経常収益(見込み)は、+1.6%と小幅な増益に留まっているものの、上方修正率は前回調査比+5.0%と、事前の収益計画よりもやや上振れした状況で走っている姿が分かる。上期はエネルギー価格の高騰といったコスト高が企業収益を圧迫したが、収益状況は底堅かったと言えよう。
特に大企業・製造業では修正率は+8.0%となっており、加工業種を中心に上方修正の動きが鮮明になった。これは海外景気の堅調さや為替円安化が背景にあろう。
円安・原油安の効果で収益は15%程度の上方修正余地
その輸出企業の想定為替相場は年度平均で111.64円/ドル、下期で111.31円/ドルとなっている。足元の為替相場は118円/ドル程度と想定より円安で推移しており、輸出額の上ブレ余地が残っているものと見られる。
大企業・製造業の収益計画をもとに為替円安の収益に与える影響を試算した。前提として年度平均の為替相場を117円/ドルとし、輸出額のドル建て比率を5割(貿易取引通貨比率統計より)としている。試算の結果は経常利益を12%程度押し上げることになる。
為替円安の効果が収益を大きく押し上げる背景には、輸出依存度が高いことにある。売上高全体に占める輸出額は大企業・製造業で27%と3割程度だ。業種別には輸送用機械・40.4%、電気機械・39.7%と高い。つまり世界経済や為替相場といった外部環境の影響を受けやすいと言えよう。
また足元では原油価格の下落が鮮明になっている。これまで収益を圧迫していた原材料価格の高騰が剥落することで、収益を押し上げる効果が期待される。原油価格の下落が収益に与える影響を試算してみよう。原油価格50ドル/バーレルで推移した場合、材料費の削減効果等により、経常利益を5%程度押し上げるものと見られる。
このような円安・原油安効果を合わせると、大企業・製造業の経常利益は15%強の上方修正余地があるものと見られる。今年度の収益は2割弱の増益率となり、過去最高益を更新するものと思われる。
中国GDP成長率を凌駕するわが国グローバル企業の成長率
グローバル経済の拡大に従ってわが国企業の収益力が高まっており、付加価値創造力の向上は目を見張るものがある。
右図に示したようにグローバル系産業における一人当たりの実質付加価値額を試算すると、2002年からの景気回復局面で急激に拡大している。これは業種別にみた一人当たりの実質GDPであり、生産性に相応するものである。2002年以降グローバル系産業での一人当たり実質付加価値は年率13%増となり、実質付加価値総額は2割程度の高い伸びを続けている。中国の実質GDPは10%程度の高成長を続けているが、日本のグローバル企業群はそれを凌駕していることになる。
その一方で国内に依存する中小企業・非製造業の実質付加価値額は低迷が続いている。これは輸出主導の景気回復が家計部門全体の所得の拡大に十分に結びついていないことを物語るものだ。すなわち、国内依存型産業は生産性の低さと裏腹に雇用者数を多く抱えている。そのため、グローバル経済の拡大の恩恵を被る雇用者が少ないため、家計所得や個人消費の拡大には至っていないと考えられる。
ゆっくりと国内に波及するグローバル経済の恩恵
今後の企業収益を見極める上ではこの中小企業の収益が重要であろう。なぜなら、これまでの輸出主導の景気回復から内需主導の景気拡大に結びつくかどうかが問われているからだ。
グローバル経済の拡大の波及プロセスを考察すると、第一に設備投資の拡大、第二に雇用・賃金の拡大が挙げられる。第一の国内設備投資は堅調さを維持している。第二の雇用情勢は緩やかに回復し、今後は賃金の増加が期待されるが、まだその動きは鈍い。そのため第三のプロセスとして資産効果が注目される。
第三に関して地価の状況をみると大都市を中心に上昇傾向が鮮明になっているが、これが地方圏にも波及すれば中小企業もあまねく恩恵を被ることができよう。地方圏では地価下落が続いているものの下落幅は縮小している。設備投資の国内回帰の動きと合わせ見れば、ゆっくりとではあるが国内へもグローバル経済の拡大が波及しつつある。
景気拡大持続のためには内需主導型景気への移行が必要であり、今・来年度は日本経済・企業にとって正念場を迎えるものと思われる。
(住田 友男)
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