投資環境レポート
投資の視点:個人金融資産における国際分散投資
- 米サブプライム住宅ローン市場の問題は当初それほど大きくないと考えられた。
- 証券化市場の価格決定メカニズムが機能不全に陥ったことで問題は拡大した。
- 金融市場の混乱が長引けば景気への影響も大きくなる懸念がある。
- 各国中銀の的確な金融政策運営により混乱の鎮静化は可能だろう。
サブプライム住宅ローン問題による金融市場の混乱
米国のサブプライム住宅ローン(信用力の低い個人向けの住宅ローン)市場の悪化をきっかけにした金融市場の混乱のこれまでの過程を振り返ってみよう。
2月末から3月上旬の世界的な株価下落は中国株から始まったことから「チャイナ・ショック」と呼ばれたこともあった。しかし外国人投資家の中国株投資や中国人投資家の外国株投資には制限が大きいため中国株と他市場との連動性は低いと考えられる。実際、その後の中国株は他市場とはかなり違った動きを示してきた。
株価下落の本当の原因はサブプライム住宅ローンの延滞率の急上昇などから、貸付金融機関の経営が悪化したことやローン債権を担保に発行された証券に投資していたヘッジ・ファンド等の投資家がリスク回避や損失相殺のために株式を売却したことにあったと考えられる。
もっとも当時はサブプライム住宅ローン市場の規模は米国の信用市場全体から見れば小さく、金融機関の収益は高水準であり、証券化によってリスクが分散されているため金融システム全体に与える影響は小さいとの見方が有力であった。実際、主要国の株価はまもなく反発し、日本以外のほとんどの主要市場では2月の高値を更新した。
証券化市場での問題の増幅
しかし6月頃からサブプライム住宅ローン担保証券の価格下落の加速や格付引下げなどから、金融市場の動揺が広がった。
8月に入ると同担保証券の価格評価が困難になって欧州の有力金融機関のファンドの売買が停止になったことをきっかけに一部の金融市場で価格下落、金利上昇、取引・発行量の減少などが生じて市場の流動性が収縮した。投資家がリスク資産の圧縮を進めたため株価は一段と下落し、為替市場では円のショート・ポジション(売り持ち残)が巻き戻されて円が急上昇した。
住宅ローンなど様々な債権や資産の証券化市場は貸付金融機関にとってはリスク分散、投資家にとっては多様な投資機会の提供となり、全体としては資源の効率配分に 貢献していると言えよう。
証券化においては多数の債権をまとめて証券化したり、利払いの優先順位に差を付けることで信用度の違う証券に切り分けたり、証券化されたものを組み込んで再証券化するなどの複雑な過程が踏まれている。
これらの証券の価格評価や信用格付は組み込まれている債権の過去の不良化の確率や債権間の相関などを用いた評価モデルによって算出されている。
しかし米国で貸出審査が甘いローンでも住宅価格の上昇によって不良債権化を抑えられていた中で構築されたモデルは、ローン延滞率が急上昇したり住宅価格が下落に転じるなど、想定外に住宅市場が悪化すると証券の価格評価がうまくできなくなった。
複雑な証券化市場での価格評価には投資家は証券の発行体や格付け機関が用意したモデルというブラック・ボックスに頼らざるを得なかった。このため評価モデルが働かなくなると証券化市場の価格決定メカニズムが機能不全を起こし、証券化市場の流動性の収縮の一因となったと考えられる。
証券化市場での売買や証券発行が困難になると、投資家や金融機関はリスク回避や資金確保のために株式など保有資産の処分や他の投資家や金融機関への資金提供の削減を行ったことから、金融市場全般により大きな影響を及ぼすようになった。
景気への影響と金融政策の対応
一連の問題の景気への影響としては(1)住宅ローン貸出基準が厳しくなることによる米住宅投資の減少、(2)住宅などの資産価格低下の逆資産効果による米個人消費の鈍化、(3)金融機関、事業会社などの資金調達困難化による設備投資、雇用の削減、(4)不良債権処理、保有証券の価格下落、証券化ビジネス縮小などによる金融機関の業績悪化、などが考えられる。(1)は既に進行中だが、(2)〜(4)はまだその影響は明らかではないが市場の混乱が長引けば影響は大きくなるだろう。
当初各国中央銀行はサブプライム住宅ローンの問題を、リスクを取り過ぎていた市場の正常な調整の過程と見ていたと思われる。
しかし、証券化市場の価格メカニズムが機能不全に陥り、流動性が急激に収縮すると金融システム全体や景気への影響が拡大する懸念が強まり、中央銀行としても見過ごすことが出来なくなってきた。日米欧中銀の緊急資金供給、米国での公定歩合引き下 げ、日本銀行の利上げ見送りなど金融政策の対応が始まった。
米国の住宅市場の調整はまだ続いており、サブプライム住宅ローンの延滞率は今後さらに上昇する懸念がある。こうしたことから証券化市場の機能が正常化して流動性が回復するのにはまだしばらく時間がかかると思われる。しかし、各国中央銀行が流動性の逼迫に見舞われた市場や金融機関に資金供給を行うなど的確に金融政策を運営してゆけば、株式・為替市場の混乱を鎮静化することは可能だろう。
(榊 茂樹)
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