投資環境レポート
特集:2006年8月 高騰する原油価格と世界経済
- WTI原油価格は一時70ドル台後半に上昇し、5年前の4倍以上になった。
- 新興経済圏の台頭などによる世界的な原油需要の増大が価格上昇の一因。
- 最近では中東情勢の混迷による供給不安も価格上昇に影響している。
- 原油価格の高騰は景気、インフレ両面のリスクとして注意が必要。
高騰する原油価格
世界の原油市場の指標銘柄としてよく使われているWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油の1ヶ月先渡し先物価格は7月中旬には1バーレル(=約158.9リットル)当たり70ドル後半にまで上昇した。2001年の11月には一時17ドル台をつけたこともあったので5年弱の間に約4.5倍になったわけである(図1参照)。
原油価格上昇の主な原因としては(1)世界的な原油需要の増大、(2)原油市場への投資資金の流入、(3)原油供給の寡占化、(4)中東情勢の混迷による原油供給不安が挙げられよう。
新興経済圏で大きく増加する原油需要
世界の原油消費量を見ると過去5年では年率2%弱のペースで着実に増加している(表1参照)。先進国を意味するOECD加盟国の消費量は年率0.7%増に留まっているのに対し、OECD非加盟国の消費量は年率3.7%増と大きく伸びている。特に中国の消費量は年率7.0%増という極めて高い伸びになっている。
このように中国を中心に新興国の原油消費量が大幅かつ着実に伸びていることが原油価格の中長期的な上昇トレンドを支える要因になっていると考えられる。
投資資金の原油市場への投入
需要面での原油価格上昇のもう一つの要因は、様々な投資資金が原油市場に投じられるようになったことである。短期的価格変動を狙う投機的資金だけではなく、最近は年金や投資信託など中長期的な収益の獲得を目指すタイプの資金も原油などの国際商品市場に投資する額が増えている模様である。
原油消費量の増大を背景にした価格の持続的上昇期待が資金を引き付けている上に、株式や債券と原油などの商品の価格変動パターンには違いがあるため商品に投資範囲を広げることでリスク分散を図ることができるという意識が高まったことも影響しているようだ。
こうした資金はある程度の期間、買いポジションを維持するため中期的な価格動向にも影響を与えうる。
供給の寡占化が進む原油市場
次に原油の供給側の動向を地域別に見てみよう。
中東は70年代に高い産油量シェアを誇ったが80年代はイラン・イラク戦争、北海油田の生産増、原油価格維持のためのOPEC(石油輸出国機構)の生産調整などから大きくシェアを下げた(表2参照)。
旧ソ連ではソ連崩壊に伴う政治経済的混乱により90年代前半に生産が急減した。
しかし北米、北海の産油量が近年頭打ちから減少に転じ、その一方で原油需要が継続的に増えていることから中東、旧ソ連と、さらにアフリカの原油生産シェアが大きく上昇している。
また、中東、北アフリカの産油国を中心にしたOPECのシェアは80年代に一旦30%程度まで低下していたものが90年代半ば以降は40%台に上昇している。
このように原油市場は70年代と同様に供給が寡占化してきている。一般に供給寡占市場は競争的な市場に比べて価格は高くなりやすい。
混迷化する中東情勢
さらに、こうした主な産油地域には政治情勢が不安定な所も多く、政治・軍事的な混乱が産油量の急減をもたらす懸念がある。
特に、現状では中東情勢が大きな懸念要因である。イスラエルのレバノン侵攻そのものは周辺諸国との戦争に発展しそうにはなく、世界経済への影響は小さい。
しかし、レバノンのヒズボラ、シリア、イラクのサドル派、イランというシーア派の過激的なグループ間の連携は要注意であろう。イラクは内戦に陥るリスクもあり、イラクのシーア派支援のためにイラン、シリアが介入すれば周辺産油国にも飛び火しかねない。
こうした不安感が既にこれまでの原油価格上昇を招く一因になっていると見られるし、実際にそうした事態になれば原油価格が100ドルを超える可能性も否定できないだろう。
スタグフレーションのリスク
これまでのところ世界経済は原油価格の高騰にもかかわらず堅調な拡大を続けてきた。世界景気の拡大の結果としての原油価格高騰と言うこともできよう。また、70、80年代に比べてGDP単位当たりのエネルギー消費量が低下していることが原油価格高騰の世界経済への影響を小さくした面もある。
しかしエネルギー価格の上昇によりインフレ率が高まり、他の財の価格に若干波及する動きが主要国で出てきている。各国中央銀行は懸念を強め、金融引き締めモードにある。ここでさらに原油価格が上昇し、原油輸入国のインフレ率を押し上げると共に実質購買力を押し下げると、70、80年代ほど厳しいものにはならないにしても景気悪化とインフレ率上昇の並存というスタグフレーション的な状況を招きかねない。原油価格そのものと共に他製品価格への波及や家計、企業の期待インフレ率の動向に注意しておく必要がある。
90年以降の世界経済においてはインフレ率の低下ないし低位安定が低金利をもたらし、それが景気拡大と並存することで資産価格の堅調な上昇を招いた。スタグフレーションはそれとは丁度逆の環境をもたらすものなのかもしれない。(榊 茂樹)
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