野村アセットマネジメント

社会的価値を生み出すインパクト投資

コラム第7回│
具体的な「社会的インパクト(社会的価値)」創出について②

第7回具体的な「社会的インパクト(社会的価値)」創出について②のイメージ

前回は投資先企業の「社会的インパクト(社会的価値)」の創出について解説しました。

最終回となる今回は、「社会的インパクト」の効果をファンドとして計測する事例についてお話しします。

ファンドであれば、少なくとも数十社の企業に対する投資を実行することになり、ファンド受益者は「投資リターン」に加えてその投資先企業が創出する「社会的インパクト」を享受することが可能となります。

株式投資における原点を考えてみると、「投資リターン」の程度に注目する面もありますが、投資先企業に対する応援、その企業が行なう事業を支援する意味合いも大きいように思います。事業を支援した結果として、「投資リターン」を得ることが株式投資であるとすれば、「社会的インパクト」を通して株式投資を考えることも可能なはずです。この場合、「投資リターン」を享受できる上に、具体的な「社会的インパクト」も享受できるという形で、投資を実行できることになります。

当社のインパクト投資手法を用いる戦略の事例を見てみると、GHG(温室効果ガス)の排出量削減、感染症薬の提供、飲料水の提供など、単年度と中長期の両方において「社会的インパクト」を生み出している事例を見出すことが出来ます。

ファンドにおける「社会的インパクト」の総量についての考えをもう一歩進めると、投資額当たりの「社会的インパクト」も計測が可能となります。例えば、投資額100万米ドル当たりのファンドにおける「社会的インパクト」(単年度のアウトカム(成果))(ご参照:第3回コラム)も計測することができます。これは、機関投資家などが、実際の投資額における具体的な「社会的インパクト」量を計測可能になることを意味します。つまり、投資額に対応した具体的な「社会的インパクト」を項目別にかつ数量的に把握することが可能になるということを意味します。
(下記は当社のインパクト投資手法を用いる戦略の事例)

投資額100万米ドルあたりのインパクト
(影響)

自然資本の棄損を抑制

工業用金属、貴金属のリサイクルにより796kgの高付加価値金属を回収

自然資本の棄損を抑制

気候変動の抑制

MSCI ACWIと比較してCO2排出量が386トン減少(スコープ 1、2、3*の合計) これは、84台の自動車を道路から撤去することに相当

*事業活動に伴う温室効果ガス排出量の範囲を規程したもの

2.63kWの再生可能エネルギーへ接続。これは、3世帯に電力を供給するのに十分な量

電気自動車用(EV)向けに生産された72kWh分の蓄電用正極財材料、これは3台のEVに電力を供給するのに十分な量に相当

気候変動の抑制

安全な飲料水へのグローバル・アクセス

1,582リットルの安全で清潔な飲料水

衛生支援プログラムと水アクセスプログラムへの303名の参加

安全な飲料水へのグローバル・アクセス

感染症の撲滅

31名の低所得患者がアクセス戦略*を通じて受診― そのうちの7人はHIV治療

*途上国向け医薬品配布プログラム

189本のワクチンを配布

感染症の撲滅

COVID-19 (感染症の撲滅)

製薬会社は、年間でCOVID-19に対する39回の試薬試験を実施

2021年に製薬会社が54種のCOVID-19ワクチン製造をターゲットに*

現在、年間44種のワクチン製造能力*

COVID-19ワクチン向けに利用される医療用器具362本*

*新型コロナウイルス関連のインパクト(影響)については、投資額(百万米ドル)あたりの実績データではなく将来のデータを提供することにしています。企業が果たしている役割をステークホルダーに十分に理解してもらうためです(企業は投資能力の確保からあまり時間が経過していないため)。

COVID-19 (感染症の撲滅)

基本的な金融サービスへのグローバル・アクセス

ケニア全土で十分なサービスを受けられずモバイル決済にアクセスできなかった65人をサポート

インドにおける経済的に脆弱なセクターに属する人々に、1人当たり889米ドルの住宅ローンを提供

2015年以降、以前は銀行口座を持っていなかった個人に対して、金融アクセス戦略を通じて59人のアクセスを可能に

新興国において、33人に対して保険によるソリューションを提供

基本的な金融サービスへのグローバル・アクセス

肥満の蔓延を抑制

7人の糖尿病患者に治療を提供

医療保険加入者の13名をカバー

肥満の蔓延を抑制
(出所)
野村アセットマネジメント英国拠点(NAMUK)により作成。企業のサスティナビリティーに関するデータは、各企業の株主報告書、規制当局への提出書類、その他の企業固有の文書から収集しています。インパクト・データは不整合な状況を示す場合もあります。現在、企業がこうしたデータを集計・報告しているため、これに関連して標準化され、統一的に受け入れられている手法はまだ確立されていません。幾つかのケースにおいて、当ストラテジー全体で集計できるように修正する必要があります。資料には NAMUKによる推定値も含まれていますが、本質的なインパクトを理解するために最善の努力を払って作成を行なっています。また、インパクト・データに関しては、独立機関に検証を受けてはいません。百万米ドル当たりのインパクトは、当ストラテジーの投資先企業への実質的なエクスポージャーを考慮したものとなっています。そのインパクトは、企業全体のインパクトに対して私たちの所有比率として計算され、すべての投資先企業者に渡って集計されます。例えば、A社の薬品アクセス戦略によりHIV治療を受けている人が1520万人に達した場合を考えます。私たちのストラテジーが同社をAUMの2%を保有しているとすると、ストラテジーによる100万米ドルのインパクトは、2万米ドルの保有となります。インパクトを計算するために、A社の時価総額を用いて次の式 (2万米ドル/ドル建て時価総額) ×1520 万人、を適用します。最終的な結果として、ポートフォリオにおける企業による投資額百万米ドルあたりの HIV治療の到達者数の推定値を表すことになります。

こうした「社会的インパクト」を見てきたわけですが、注意しておくポイントもあります。

最も大きなポイントの一つは、「投資リターン」の結果が分かるタイミングと「社会的インパクト」が分かるタイミングが一致しないという点です。例えば、ポートフォリオの2020年暦年の「投資リターン」は2021年1月時点で計算することが可能なのに対して、創出された「社会的インパクト」を「量的」に把握できるのは、数四半期、あるいは、1年近く遅れることになります。

また、「グリーン・ウォッシュ※1 」の様な問題もあります。この問題への対処として、規制当局は明確な基準を作成し、その基準を満たしたものだけが「インパクト投資」ファンドを名乗れるようになる、という仕組みを設けています。実際に、欧州ではESGファンドにおける規制設定が進められており、米国・欧州の資産運用会社だけでなく、海外で運用プロダクトを提供する日系資産運用会社においても、こうした規制への対応が求められるようになっています。ESGに関しては、欧州における潮流が世界的なトレンドを形成している面が強く、欧州における規制が数年後に日本でもトレンドとなる場合や基準として採用される可能性があるため、注視する必要があるでしょう。

コロナ禍を通じて、人々は様々な面でサステナブルな社会構築の必要性を強く意識するようになっています。「社会的インパクト」が注目を集めるようになっているのも、こうした背景があると思われます。将来に渡りサステナブルな社会を構築するという観点からも、「社会的インパクト」という考え方、およびインパクト投資という投資手法をより理解することがその一助になると考えています。

※1 顧客への訴求効果を狙い、環境配慮をしているように装うこと

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