利益が出ている時の売りタイミング

投資マインドを育てるコラム~やさしく学ぶ行動経済学~

利益が上がっている時、特に売りタイミングについて考えてみましょう。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンが提唱する「プロスペクト理論」に基づいて人間が持つ「心のクセ」について考えていきたいと思います。
突然ですが、次の質問に答えてみてください。

あなたなら(A)と(B)どちらを選びますか?

質問1:

(A)無条件で100万円もらえる

(B)コインを投げて、表が出たら200万円もらえるが、裏が出たら何ももらえない

質問2:

(A)無条件で100万円支払う

(B)コインを投げて、表が出たら支払わなくていいが、裏が出たら200万円支払う

このような質問をすると、質問1では(A)を、質問2では(B)を選ぶ人が多くなります。これは行動経済学の実験としてよく行なわれており、人は利益に対しては確実性を取る一方で、損失についてはギャンブル性の高い、リスクがある方を取るという傾向があることが分かっています。
これを投資に当てはめてみると、含み益がある資産は「確実に利益が得られるうちに」と売り急いでしまいがちです。利益確定売りをする時は、「まだ売らなくてもよかったかな」と考えることはあっても、大きく後悔することは少ないのではないでしょうか。一方で、含み損がある資産は「いつか損を取り戻せるかも」と売り遅れてしまいがちということがいえるのです。
だからといって、利益が上がっている資産を売らずに持っていれば必ず良い結果になるという訳ではありません。投資している人の発言には、「もっと価格が上がるだろうと思っているうちに下がってしまって、売り時を逃した」と嘆く言葉もよく聞かれます。

売り急ぐことも、売り遅れることもあるというのでは、どうすればよいのか分からなくなってしまいます。そこで、コラム「資産運用で損失が出た時に押さえておきたいポイント」でもご提案しているように、損切りの時と同様、事前に投資の目的や方針を決めておくことが重要になります。
例えば、「この資産はリスクはあるけれど、それにしても売られ過ぎだから買っておこう。妥当な価格まで戻ったら売ろう」と考えて投資をしたのなら、利益が出た時に早めに売るという選択もあるでしょう。
一方で、将来家を建てることを目標とし、10年後に向けて資産形成をする計画を立て、手段として「世界は長期的に経済成長が期待できるから、世界株式に分散投資しよう」と考え、それに合う投資信託を購入したとします。10年後の経済成長を享受したいと考えて投資したのですから、短期的な値動きに惑わされることなく、将来を見据えて保有を続けることで複利効果が生まれて、より効率的な資産形成が期待できるかもしれません。

ただし実際には、ここまで明確に状況を分析し、行動できるとは限りません。投資環境は変わりますし、値動きを見ているうちに考えが揺らいでしまうこともあります。
その時は、含み益がある資産を全部売ってしまうのではなく、一部だけ売って様子を見るという方法もあります。資産価格がさらに上昇した場合は、残した分で収益を高めることができますし、下落した場合は影響を抑えることができます。買う時も“時間分散”は大切ですが、売る時も“時間分散”を考えましょう。