福田コメント
もう一つのエンジンに火がついた!
米Corning社の株価が勢いを増しています。2025年7月29日には4-6月期決算発表を受けて、前日比+11.9%の$61.98(終値)を付けました。その後も上昇基調が続き、8月7日には$64.76(終値)となり、今から24年前、2001年2月以来の高値を付けました。
2001年当時、私は当社の英国拠点(Nomura Asset Management U.K. LIMITED)で欧米のGlobal Communication Technology株のアナリストとして、Cisco Systems、Texas Instruments、Qualcommなどの米国株、Nokia、Ericsson、STMicroelectronicsなどの欧州株のリサーチを行なっており、Corning社もそのうちの1社でした。私は、ロンドンで2000年半ばから2003年まで勤務していたのですが、2000年に崩壊したドットコム・バブル、とりわけその打撃が壊滅的に大きかった通信機器関連業界に対して残した爪痕の大きさは、先述のCorning社の株価がここへ来てようやく2001年2月以来の高値を付けたということ、そして過去最高値はそのわずか1年前、2000年9月の$113.29(取引時間中ベース)とはるか上であるという事実が如実に表しています。
ちなみに、Corning社の最高値は2000年9月の$113.29(取引時間中ベース)に対し現在の株価は$65近辺、日本の電線メーカーである古河電気工業の最高値が2000年10月の3万7,100円(取引時間中ベース)に対し、現在の株価は8,000円台前半。Corning社は、光関連製品以外にもTFT-LCDパネル、ハニカム・セラミックスなど様々な事業を手掛けており、なおかつ世界的なリーディング・カンパニーであり、古河電気工業とは光関連以外の事業ポートフォリオに大きな差異があることは事実です。とはいえ、株価の方向性を決めていたのは多分に光関連事業の動向だったように見えることから、厳しい事業環境が続いた業界でも、厳しかったなりに企業としての頑張りを見せてほしいところでした。
1990年代後半は、PC、携帯電話が世界的に普及し、またインターネットの爆発的な浸透によりデータ・トラフィックが指数関数的な増加を遂げたことなどを背景に、言わばその交通整理を行なうCisco Systemsのスイッチなどの一般企業向け機器が大きく成長しました。しかし、"インカンバント・キャリア"※と呼ばれた既存企業の抵抗が強かった通信インフラの高速化・大容量化はその実行スピードが遅く、規制緩和による新規参入の増加などによりその解決が図られたものの、通信ネットワーク構築に要する莫大な資金と時間が十分でない新興キャリアは、ベンダー・ファイナンスの悪弊と共に、バブルの藻屑となって消えたり、Worldcomのように粉飾決算に手を染めたりした企業も出ました。
※業界をリードする企業
当時の経験から、通信機器の需要はまず一般企業向け、次いでテレコム・キャリア向けが伸びることになるはずで、ハイパースケーラーのデータセンター投資が活況を呈している現在は、まだ2段ロケットのうちの第1段階に過ぎないと私は考えてきました。しかしながら、ここへきてCorning社による決算カンファレンス・コールでの発言によると、テレコム・キャリアの設備投資に動きが出てきたようです。通信網は文字通りネットワークであり、全体としてのスピードや容量が最終的には問われることになります。したがって、ネットワークの一部分だけが過度に高速化・大容量化されていてもボトルネックは解消されず、全体のバランスが考慮される必要があるということです。投資規模が大規模となりがちなのもこれが要因の一つでしょう。
例えば、オープンAIとソフトバンク・グループが2025年1月に発表した"Stargate Project"によると、データセンター、発電設備、半導体工場などに今後4年間で5,000億ドル投資を行なうことが計画されています。電力もネットワーク産業で大規模な投資が必要ですが、データセンターの近くに発電設備を立地することで送配電にかかるコストをセーブする意向です。データセンターがそれぞれスタンド・アローンで稼働することはあり得ないので、データセンター内外でそれぞれを結び、光信号を伝送することになるのでしょう。
こうした背景から、順次通信ネットワーク全体のアップグレードが行なわれることになると考えられます。順番としては、まずは企業向けのVPN関連など、次いで都市部などのメトロ・ネットワーク関連、あるいは幹線・バックボーン関連、そして最後に、最も高コストで採算が厳しい「ラスト1マイル」である個人向け関連、という順序で投資が出てくる可能性が高いと思われます。ドットコム・バブルの際の一般企業向けの成長がCisco Systemsのスイッチ・ルーターの成長に代表されるとしたら、現在のデータセンター投資の拡大は生成AIサーバーということになるでしょう。
とにもかくにも、2つ目のエンジンであるテレコム・キャリアの設備投資に火が付いたということであれば、日本の電線業界の成長のステージもさらに一段上がることになると推察できます。「電線株相場はいつまで続くのか?」と聞かれれば、私は「第1幕に続き、さらに面白い第2幕がこれから始まりますよ」とお答えしたいと思います。役者としては、これまでは、ハイパースケーラーによるデータセンター投資向け需要を早くから取り込んできたフジクラが抜きん出た活躍を見せましたが、古河電気工業など比較的テレコム・キャリア向けに強いとされる企業の勢いがこの先加速するか、注目しています。