定年退職前後の手続きガイド
~期限とやること、窓口(相談先)がわかる~
このコラムでは、定年退職および再雇用満了(60~65歳)を経て本格的にリタイアする方に必要な手続き(健康保険・国民年金・税金・雇用保険)を解説します。
在職中は会社が代行していた各種手続きも、退職後はご自身で対応する必要があります。特に健康保険の手続きには期限があるため、提出遅れや書類不備がないよう、早めの準備・申請を行うとよいでしょう。各種手続きについては「時期/期限」「やること(概要)」「窓口(相談先)」の3点に分けて整理しています。
1. 健康保険
健康保険の切り替えは退職直後が重要です。退職により会社の健康保険の資格を喪失した後は、原則として任意継続(最長2年)、国民健康保険、家族の扶養、特例退職被保険者制度のいずれかへ移行します。退職の2ヵ月前までに各制度の加入方法を比較し、退職の1ヵ月前までに保険料の目安を確認して必要書類を揃えておきましょう。
任意継続
任意継続は、退職日(資格喪失日)の前日までに同一の健康保険に継続して2ヵ月以上加入していた等の要件を満たすことで、退職後も最長2年間、在職時と同様の保険給付を受けられる制度です。ただし、会社負担がなくなるため保険料は上昇しやすく、手続き期限も資格喪失日から20日以内です。詳細や手続き方法は、退職前に加入していた保険者へご確認ください。
国民健康保険
国民健康保険はお住いの市区町村の窓口で加入手続き(資格喪失日から原則14日以内)が必要で、保険料は所得や世帯構成に応じて決定されます。国民年金保険料には保険料の減免制度があります。詳細や手続き方法は、お住いの市区町村の窓口へご確認ください。
家族の健康保険
家族の健康保険被扶養者となる場合は、退職日から原則5日以内に届出が必要です。被扶養者は保険料負担が生じないことが多い反面、収入要件を超えると扶養から外れます。目安は年収見込み130万円未満(保険者の細則により異なり、60歳以上・障害者は180万円未満の場合あり)です。なお、75歳に達すると後期高齢者医療制度へ自動的に移行します。介護保険の保険者は市区町村であり、65歳以上には扶養に入っている場合でも介護保険料が課されます。詳細や手続き方法は、家族の勤務先を通じて加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の窓口へご確認ください。
特例退職被保険者制度
健康保険組合が独自に設ける特例退職被保険者制度により、健康保険の長期加入など一定の要件を満たす退職者は、退職後も後期高齢者医療制度に加入するまでの間、継続加入できる場合もあります。すべての健康保険組合に制度があるわけではないため、詳細や手続き方法は、退職前に加入していた健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)や会社の人事担当へご確認ください。
- (出所)全国健康保険協会
- (出所)「退職後の健康保険のご案内」
- (出所)厚生労働省 「特定健康保険組合について・任意継続被保険者制度について」
- (出所)日本年金機構
2. 国民年金
60歳以降に定年退職した場合、原則として国民年金への加入義務はありません(国民年金の加入義務は、日本国内に居住する20歳以上60歳未満が対象)。ただし、老齢基礎年金の受給資格期間(原則10年以上)を満たしていない、または保険料の納付月数が不足していて満額の老齢基礎年金が見込めない場合は、60歳以上65歳未満の期間に「任意加入」ができます。任意加入の手続きは日本年金機構(年金事務所)またはお住いの市区町村の窓口で行います。
また、扶養している配偶者が60歳未満の場合は、退職により配偶者の第3号被保険者資格が失われるため、配偶者は第1号被保険者(国民年金)への切り替え手続きが必要となり、以後は本人名義で保険料を納付します。
なお、老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取るには、受給を開始する際に日本年金機構へ年金請求が必要です。受給を繰下げる場合は、65歳時点で特別な手続きは不要ですが、受給を開始したい時点で請求が必要です。
3. 税金
退職金
退職金を受け取る際は、「税制上の優遇措置」と「受け取り時期の重複」に注意が必要です。受け取り方法は一時金・年金(分割)・併用の3種類があり、税制面では一時金が相対的に有利となるケースが多く見られます。退職金の一時金には退職所得控除が適用され、課税対象額は「(退職金収入―退職所得控除)×1/2」となるため、課税負担が軽減されます。
一方で、同一年内に退職金一時金、企業型確定拠出年金等や個人型確定拠出年金(iDeCo)の一時金を同時に受け取ると、退職金同様に「退職所得」として扱われます。退職所得の額が多くなると税率が上がり、課税額が増加する可能性があります。
なお、一時金を受け取る際は、「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出することが必要であり、未提出の場合は退職所得としての計算ができず、退職金の収入額から一律20.42%の所得税等が源泉徴収されますので、確定申告で精算することになります。
退職所得の計算式
(退職金収入− 退職所得控除額) × 1/2
勤続年数別の退職所得控除額
勤続20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20)
例:勤続年数が30年、退職金が2,000万円の場合
退職所得控除
= 800万円 + 70万円 × (勤続年数30年 ‐ 20年)
= 1,500万円
退職所得は(2,000万円 − 1,500万円) × 1/2 = 250万円となります。

| 時期/期限 | やること(概要) | 窓口(相談先) |
|---|---|---|
| 退職の2ヵ月前まで | 退職一時金や企業年金(DC・DB)等の受け取り方法を検討 | 会社の人事 |
| 退職の1ヵ月前まで | 退職金の税手続き書類(退職所得の受給に関する申告書)を会社へ提出 | 会社の人事 |
| 退職当日~1週間以内 | 離職票・源泉徴収票の受け取り予定を会社に確認(発行に2週間程度かかる場合もあり) | 会社の人事 |
| 退職後1ヵ月以内 | 退職金の支給日と税の扱いを確認 住民税の支払い方法(普通徴収)を確認 |
会社の人事、 市区町村の税窓口 |
| 退職後6ヵ月以内 | 企業型確定拠出型年金のiDeCo等への移管 | 運営管理機関 |
住民税
住民税は前年所得に基づき、当年6月から翌年5月までの1年間にわたって納付します。退職月が6月~12月の場合は、市区町村からの納税通知書によって個人が納付することになり、退職月が1月から5月の場合は、会社が本人に代わって納付します。
還付申告
会社員の場合、毎月の給与や賞与から概算の所得税が源泉徴収されます。年末調整により正しい所得税額が計算され、一般的には12月の給与で払い過ぎた税金が戻り、不足分は給与から差し引かれます。退職の年に源泉徴収された税金が納め過ぎになっている場合は、確定申告により還付を受けられます(還付申告は翌年1月1日から最長で5年前まで遡って行えます)。

| 時期/期限 | やること(概要) | 窓口(相談先) |
|---|---|---|
| 翌年1月1日以降 | 還付申告(払い過ぎの返金を受ける申告)の申告書を作成し、e-Tax(オンライン)申請または郵送・持参 | 税務署、 市区町村の税窓口 |
4. 雇用保険
基本手当
基本手当(失業給付)は、雇用保険の被保険者が離職した際の再就職支援するための給付です。住所地を管轄するハローワークで求職の申し込みを行い、会社から受け取る雇用保険被保険者離職票を提出して受給資格の決定を受けます。定年退職(会社の定年による離職)の場合、受給資格の決定日から7日間の失業している日(待機)を経過した後に支給が開始されます。なお、65歳未満の方は基本手当(失業給付)の支給対象となりますが、離職時に65歳以上の方は基本手当の対象外となり、代わりに高年齢求職者給付金が支払われます。支給条件等に付きましては、ハローワークで確認ください。
高年齢雇用継続給付
高年齢雇用継続給付とは、60歳到達時点に比べ賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける、60歳以上65歳未満の被保険者に支給される給付です。60歳到達時に被保険者であった期間が通算5年以上であることなど、一定の受給要件があります。また、支給申請に関しては、原則として事業主を経由して手続きを行います。

| 雇用保険の基本手当(失業給付) | 高年齢求職者給付金 | |
|---|---|---|
| 受給要件 | 離職時に65歳未満が対象 | 離職時に65歳以上が対象 |
| 支給の開始 | 離職票を提出し、受給資格の決定日から7日間の失業している日(待機)が経過した後 | 離職票を提出し、受給資格の決定日から7日間の失業している日(待機)が経過した後 |
| 受給期間 | 離職の日の翌日から1年間 | 離職の日の翌日から1年間 |
| 窓口 | 住所地を管轄するハローワーク | ハローワーク |
定年退職前後の手続きは、制度の理解と期限を正しく管理することが何よりも大切です。まずは本コラムを手引きに、不明点は各窓口で最新情報を確認し、賢くリタイア準備を整えましょう。
- 記載の内容は、コラム制作時点(2025年12月)のものです。
- 当コラムの記載事項・見解は、全て当コラム作成時点で当社が知り得る情報に基づくものです。将来、制定される制度の内容が変更になる、または一旦制定された制度が変更・廃止になる可能性等があります。
