住宅事業を祖業としながら、物流施設やデータセンターなどの非住宅分野、さらには海外事業やストック(中古住宅)事業へと多角化を進め、持続的な成長を遂げる大和ハウス工業。社会の変化や要請にいかにして応え、未来への種まきを行っているのか。代表取締役社長の大友浩嗣氏と野村アセットマネジメントの小池広靖が、その成長戦略と展望を語り合いました。
小池 約3年前に芳井会長と対談させていただきました。当時の方針を着実に具現化され、業績を大きく伸ばしておられます。とりわけ施設開発事業では、物件売却の利益貢献も大きく、目覚ましいものがあります。これまでの不動産開発投資の実績や、現状の成果などを振り返り、投資成果が結実した背景についてお聞かせいただけますか。
大友 当社は、プレハブ建築という「建築の工業化」を企業理念に創業し、高度成長期には住宅事業を柱として成長してきましたが、常に社会ニーズを見据えながら事業領域を拡げてきた結果が今の事業基盤へ繋がっています。流通店舗事業の立ち上げも、社会の変化を先取りし、事業として具体化してきた取組みの1つです。
その中で30年、40年という時間をかけて、建築技術に加え、土地の選定・開発を含む一体的なデベロップメント力を磨いてきました。建築を請け負うだけでなく、事業の起点となる土地の段階から関与することで、制度制約の強い市街化調整区域を含め、デベロッパーとしてのノウハウを蓄積してきたことが、現在のビジネスソリューション、いわゆるBtoB事業の成長につながっています。
大友 現在、開発した投資不動産の資産残高は約1兆6,000億円に上りますが、これらは当社がスポンサーであるREIT(不動産投資信託)の活用などを通じて、適切にコントロールしています。これにより、請負を中心としたフロービジネスに加え、ストック型の収益基盤へと事業を拡げてきました。時代のニーズや法制度の変化を的確に捉えながら事業の幅を広げ、現在では『ハウスメーカー』『ゼネコン』『デベロッパー』の“三刀流”と言われるビジネスモデルが形成されています。
小池 社名のイメージであるハウジングから、物流や不動産開発といった領域へ見事に進化されています。社会のニーズを捉え、事業として取り込み、利益を上げていくための戦略は、社内でどのように育まれているのでしょうか。
大友 法改正をはじめとする制度環境の変化は、リスクにも機会にもなり得ます。当社は、そうした変化を常に先取りし、中長期的な視点で事業機会として捉えてきました。その背景にあるのが、「人・街・暮らしの価値共創グループ」として、社会や顧客のニーズを捉え、価値創造に取り組むという当社の考え方であり、建物単体にとどまらない事業展開を進めてきたことも事業領域の拡大につながっています。
小池 近年ではデータセンター(DC)事業に注力されています。DC事業の展望についてお聞かせください。
大友 DCはワシントンD.C.を中心として米国に世界の半数近くが集積していると言われています。日本のDC市場は今後の成長余地がありますが、事業を進めるうえで最大の課題は電力です。電力会社の供給可能量や変電所の確保に加え、需要地との距離、冷却方式といった様々な課題を考慮する必要があります。
こうした環境を踏まえ、当社では、郊外での大型DC、都市型DC、そして新たに発表したモジュール型DCの3つの形態で事業を展開していきます。中でもモジュール型は、大学や行政、企業の情報管理ニーズに対応できる柔軟性を備えており、「日本型DC」の1つになり得ると考えていますので、日本に適したDCのモデルを確立していく方針です。
小池 DC事業における御社の強みはどこで発揮されるとお考えですか。また、完全子会社化を発表された住友電設株式会社とはどのようなシナジー効果を期待されているのでしょうか。
大友 近年、DCや半導体関連工場など、建物本体よりも内部設備の比重が高い建築物が増えています。こうした分野では、建物単体ではなく、関連するサプライチェーン全体を見据えた対応が競争力の源泉になるため、住友電設とのシナジーは極めて重要だと考えています。
PMI(買収後の統合プロセス)は取引が全て完了してからにはなりますが、短期的には既存受注への対応や人財育成で連携しつつ、同社が持つ技術力や協力会社ネットワークといった強みを生かしていきます。中長期的には、設計段階からの協業を通じて、より付加価値の高いプロジェクトへの対応力を高めていく考えです。
小池 祖業である住宅事業ですが、国内市場が縮小する一方で、リフォームや買取再販といったストック(中古住宅)事業に成長の鍵があるように見受けられます。御社の「Livness(リブネス)」事業の今後の展望についてお聞かせください。
大友 住宅市場は人口動態を踏まえると厳しい環境にありますが、私は戸建住宅事業を安全・安心を支える社会インフラの1つとして捉えています。災害リスクが高く、エネルギーコストへの関心も高まる日本において、防災性能と省エネルギー性能を備えた良質な住宅は、依然として社会に求められています。
そのうえで、これまで当社が供給してきた約66万戸のお客様の住まいを起点に、暮らしの変化に寄り添い続けるのがリブネス事業です。リフォームや買取再販を通じて、建物を現在の設備・環境水準に合わせて再生し、長く使い続けていただくことで、住まいの価値とお客様との関係を継続する。これは、不動産を循環させるストックビジネスであると同時に、お客様一人ひとりと長く繋がる事業だと考えています。
リブネス事業は、2026年度に売上高4,000億円という目標を2年前倒しで達成し、今年度は4,500億円、来年度は5,000億円を見込んでいます。将来的には1兆円事業に成長できると考えています。
小池 住宅だけでなく、非住宅分野でのリブネス事業も伸びているそうですね。
大友 建築費の高騰やストック活用ニーズの高まりを背景に、既存の物流施設や工場などを取得・改修し、再び市場に供給する「BIZ Livness(ビズリブネス)」も着実に成長しています。大型案件も増加しており、将来的にリブネス事業の売上高1兆円目標のうち、約6割を非住宅のビズリブネスが占めると想定しています。現在は当社が手掛けた建物を中心に展開していますが、お客様からのご要望があれば、他社物件にも対応していきたいと考えています。
小池 大和ハウス工業は海外でのM&Aも非常にうまくいっている印象です。買収企業を選定する際に重視している基準や、譲れない条件などがあればお聞かせください。
大友 当社はM&Aにおいては、短期的な収益性だけを目的とするのではなく、創業者精神である「儲かるからやるのではなく、世の中の役に立つ事業」という視点を重視しています。そのため、収益性に加えて、企業の考え方や価値観が当社と共有できるか、何よりも経営者がどのような考え方を持っているかを重要な判断軸としています。特に文化や商習慣の異なる海外においては、事業の成り立ちや経営の背景まで理解することが、長期的な価値創出につながると考えています。
小池 米国での住宅事業のグランドデザインや、米国以外の海外戦略についてはどのようにお考えでしょうか。
大友 米国では、地域特性の強い住宅市場を前提に、価値観を共有できる企業にグループ入りしてもらい、その企業を核に地域に根差しながらアメーバ的に事業領域を広げていく戦略です。現地子会社の自主性を尊重しながら、グループとしての管理体制やガバナンス面を親会社として主導する形を取っています。
米国以外の地域では、これまで進出してきたASEAN各国やオーストラリアでの事業を継続・発展させるとともに、今後は欧州も重要な成長地域の一つになると考えており、将来的な復興需要を見据えた中東欧地域などにも注目しています。災害対応や復興支援の現場で培ってきたプレハブ建築などの技術やノウハウは、世界各地で生かせる領域があると考えています。
小池 事業が多角化する中で、二大本部制への移行など組織構造の変革を進められていますが、どのような効果や手応えを感じておられますか。
大友 組織改革は現在も進めているところですが、狙いは大きく2つあります。1つは、成長領域への人員配置を含めた組織機能の最適化です。事業環境の変化を踏まえながら、会社の成長に資する形で従業員一人一人の活躍領域を広げていきます。もう1つは、監督機能と執行機能の役割を明確にし、ガバナンスを一層強化することです。各事業本部が現場での執行に専念する体制にしながら、二大本部が全体を俯瞰する立場で監督を担う形とすることで、意思決定の質とスピードの両立を図っています。
小池 住宅だけでなく非住宅分野においても、木造建築に取り組まれていると伺いました。
大友 当社は鉄骨構造を主力としていますが、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルといった社会的要請を踏まえ、非住宅分野における木造・木質化には中長期的な成長余地があると考えています。そこで、鉄やコンクリートと木を組み合わせた新たな建築の可能性を追求するため、「Future with Wood推進部」を立ち上げ、約35名の社員が社内公募で集まりました。既に、保育所や高齢者施設、工場の食堂棟などで鉄骨とのハイブリッド建築、木造活用が進んでいます。現在の事業規模は140億円程度ですが、将来的には3,000億円規模へと育てていきたいと考えています。
小池 第7次中期経営計画の目標を前倒しで達成される見込みとのことです。2026年度から始まる第8次中期経営計画に向けて、事業環境の変化も踏まえ、今後の事業・財務戦略についてどのようにお考えかお聞かせいただけますか。
大友 まず第7次中期経営計画を総括し、成果と課題を整理したうえで、創業100周年となる2055年に売上高10兆円という長期目標に向けた次のステップを描いていきます。海外事業の拡大やM&A、国内事業の再編は、いずれもその実現に向けた布石です。
今のところ第8次中期経営計画は4年間で検討しています。不動産開発など複数年を要する案件が多い当社にとって、4年程度が事業サイクルに合致していると考えていますが、事業環境の変化も激しい時代ですので、中間の2年目あたりで進捗を振り返り、軌道修正するということも必要になってくるかもしれません。
小池 最後に、我々機関投資家に対してメッセージなどございましたらお聞かせください。
大友 当社の事業ポートフォリオは、時にコングロマリットディスカウントの文脈で語られることがあります。しかし当社は、社会の変化に応じて事業を組み合わせながら、独自の形で進化してきました。私は、例えば外科手術的な西洋医療のアプローチでの事業譲渡や投資集中だけでなく、漢方で体質改善を目指す東洋医療のようなアプローチにも良い面があると考えております。多様な事業を持つことは、単なる分散ではなく、長期的な成長と安定性を両立させるための戦略的な選択です。他に類のない事業ポートフォリオこそが大和ハウスらしさであり、私たちの競争力だと考えています。これからも社会の要請に応えながら、独自の進化を続けることで持続的な成長を目指していきます。
小池 力強いメッセージを聞かせていただき、ありがとうございました。
この記事は、投資勧誘を目的としたものではなく、特定の銘柄の売買などの推奨や価格などの上昇または下落を示唆するものではありません。
(掲載日:2026年3月23日)