野村アセットマネジメント

対談【大和ハウス工業】総合1位から絶対的1位へ ポートフォリオの新陳代謝をアピール

右:大和ハウス工業株式会社 代表取締役社長 CEO 芳井 敬一 氏 左:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖
右:大和ハウス工業株式会社 代表取締役社長 CEO 芳井 敬一 氏
左:野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

4兆4,395億円の売上高(2022年3月期)を誇る大和ハウスグループ。グループ会社数は480社(2022年3月末)と2010年から約6倍に増加した。ハウスメーカーの枠を超え、街づくりや暮らしへと事業領域を広げ、価値創出を目指している。さらなる成長への展望や抱える課題感、株価向上へのトリガーを探り、大和ハウス工業株式会社の芳井敬一氏と野村アセットマネジメントの小池広靖が語り合いました。

ポートフォリオの新陳代謝により総合1位から絶対的1位を目指す

小池 大和ハウス工業はこの10年間、積極的な投資をしながら事業を多角化し、業績を伸ばしてきました。特に海外進出にも意欲的で、海外事業では驚異的な利益成長を実現しました。芳井社長は海外事業に社長就任以前より深く携わってきました。これまでの歩みを振り返り、今後の展望についてお聞かせください。

大和ハウス工業株式会社 代表取締役社長 CEO 芳井 敬一 氏

芳井 私が経営のバトンを引き継いだのは、2017年11月になります。既に建設・不動産業界で売上トップの企業ではありましたが、“大和ハウス工業はいつも総合1位”という思いが強かったのです。戸建住宅や集合住宅など個別にみると業界トップではないが総合すると他社を凌いで業界1位という印象です。流通店舗事業や環境エネルギーなどトップクラスの事業もありますが、全体としてみると絶対的1位とは言えません。別の言い方をすれば成長余地はまだあるということだと思います。
海外事業については2010年に海外担当の執行役員に就任しました。「100周年の2055年に売上高10兆円」が旗印となり、新たなビジネスチャンスに向けては「国内・海外の比率3:7」とのイメージも打ち出されていましたが、その当時の海外での売上高はわずか9億円ほどでした。国内でさえ開発投資でいくつかの失敗も重ねてきた中、在庫リスクの大きい海外開発案件で失敗をすれば会社は吹き飛びます。加えて投資開発型で一過性の売上を計上しても長続きしないと思い、ストック型に変えるために何をすべきかを考えました。
そこで海外に特化した専門部署ではなく、戸建住宅、集合住宅、商業施設、事業施設といった各部門の中に海外市場を担当する仕組みを導入しました。海外事業についてはこれがとても功を奏したと考えています。

小池 大和ハウス工業の強みとして活かしてきた点は何でしょうか。また、課題点として浮き彫りになってきたことはありますか。

芳井 開発型の会社でありながら“建築屋”であることを捨てなかったことです。他社に建築を委ねるとノウハウが残りません。当社が全てコントロールすることで、新たなビジネスチャンスを掴むことができます。高度な物流施設やデータセンターの受注獲得につながった事例はその典型です。流通店舗事業における大型開発案件にも対応することができました。
課題に関しては、株価を見るとコングロマリット・ディスカウントが生じていると感じています。グループ会社数が増えて、事業の全体像や相乗効果が見えにくくなり、投資家もどんなジャンルの会社であるのか判別しづらくなっているのではないかと感じています。ですから、米国の金利が上がると海外リスクが懸念されて株価が下がる、一部で物流が滞ると事業施設事業で全体の評価が下がるといったように、部分的なリスクを過大に懸念されてしまう傾向があります。
会社を明確に理解してもらえるように、ポートフォリオを整理して、新陳代謝を進めていることはアピールしなければならないと考えています。日本企業のM&Aは会社を買うことが多く、売却が進んでいない印象があります。トップラインを上げるためのM&Aであればそれが正当化されるとの見方はありますが、私は違う考え方を持っています。決して、事業を切り捨てるわけではありませんが、私たちがベストオーナーでなければ、他社に売却することでその事業の成長を促進すべきです。反対に、他社で成長できなかった事業が当社グループに入ることで成長することも考えられます。こうした新陳代謝が大切です。今回、リゾートホテル事業を売却することとなりましたが、今後もポートフォリオの見直しに向けては継続的に検討し新陳代謝を図ります。

大和ハウスグループの強み
大和ハウスグループの強み
(出所)大和ハウス工業株式会社・統合報告書 2022より
建築の工業化を強みに海外企業をグループに取り込み成長加速
野村アセットマネジメント株式会社 CEO兼代表取締役社長 小池 広靖

小池 こうした歩みを踏まえ、2022年5月に第7次中期経営計画を公表されました。2026年度には売上5兆5,000億円、営業利益5,000億円にするという高い目標を設定されています。実現に向けた具体的な戦略や注力したい取組みを聞かせてください。特に、海外ビジネスと言っても、いろいろなジャンルや事業領域がある中で、どういった展開を考えているのですか。

芳井 今回の中期経営計画に関しては、私たちは海外事業の積極的な展開を強調したつもりですが、一方国内事業は保守的と思われているようです。中期経営計画を策定した当時と現在では世界の経済環境が大きく異なり、円安や米国金利の上昇、資材価格の高騰などシナリオが大きく変化しましたが、売上5兆5,000億円は達成可能と考えています。
米国事業で言えば、真面目に事業をやっていて、私たちと同じ企業文化を持つ企業を3、4年かけて探しました。例えば、2017年にはワシントンD.C.を中心に戸建住宅事業を展開していたスタンレー・マーチン社がグループ入りしました。50年以上、地元密着で商売をしてきた会社ですが、大和ハウス工業の事業展開を模倣し、エリア拡大に積極的です。
大和ハウスグループ入りすることで各社にプラスの相乗効果が働きます。当社の強みは、建築の工業化による工場生産比率の高さです。海外の工期は日本の倍以上です。日本らしい段取りの良さと工業化を導入することで、工期を短縮でき、資金も早期に回収できる。しかも安定した品質であるという評価まで得られます。また、グループであることで、材料などを安く仕入れられ欠品も少なくなるというスケールメリットも生じます。エリアを拡大する際に必要な資金も、大和ハウス工業を通せば金融機関から有利な条件で借入できるため、財務体質は改善され、利益が出せる体質になります。

小池 海外案件が増えてくると、会社全体で為替のポートフォリオも変わるでしょうし、エリアやセクターによって景気変動の影響も生じると思います。リスク管理やガバナンスの強化については、どのように捉えていますか。

芳井 その重要性は社外取締役からも指摘されています。海外各拠点での監査法人を含め頑強な体制を構築しています。ようやく体制が整い、あとはアップデートを重ねて改善していくだけです。欧米の住宅市場は、サブプライムローン問題やリーマンショックの時期を除けば、基本的にゆるやかな成長を続けています。金利上昇の影響も限定的だと思います。仮に落ち込みがあったとしても期間利益が減るだけで、開発型のように在庫を抱えて大きな減損となるわけではないため、国内市場で十分カバーできると考えています。

第7次中期経営計画の3つの基本方針と8つの重点テーマ
第7次中期経営計画の3つの基本方針と8つの重点テーマ
(出所)大和ハウス工業株式会社・統合報告書 2022より
新しい事業は踊り場を経ないと成長はない

小池 たいへん心強いコメントで、しっかりと成長軌道を歩もうとされている様子が分かりました。キャッシュフローを超える投資を積極的に実施し、高い利益成長を目指す戦略自体に違和感はありません。一方で、過去5年程度で見ると総資産回転率やROIC(投下資本利益率)などの資本効率の指標が低下傾向にあるのを懸念しています。株価も成長企業のバリュエーションは付与されず、ボックス圏にあります。株価が上昇基調となるには、どのようなきっかけが必要だと思われますか。

芳井 当社がこれまで成長してきたのは新しい事業を生み出してきたからです。卵を産んで孵化したけれど、その先には様々な問題が生じます。いわゆる新規事業による踊り場を経ないと次の成長はないと思っています。現在は足場固めの時期だと認識しています。ROICには、会社全体のROICもありますが、各事業にもROICは存在します。事業によっては、一律ではなくROICによって重点的にウエイトをかけるべきものがあるはずです。例えば、中期経営計画では物流施設やデータセンターなどの不動産開発に1兆5,000億円の投資を予定していますが、重点的に投資する背景・理由について丁寧に説明すれば投資家には理解してもらえるはずです。

売上高/総資産回転率
売上高/総資産回転率
(出所)大和ハウス工業株式会社・統合報告書 2022より
投下資本利益率(ROIC)
投下資本利益率(ROIC)
(出所)大和ハウス工業株式会社・統合報告書 2022より
社会問題では「空き家対策」に取り組む

小池 ESGに関しては、SBT認証を取得するなど業界でも先進的です。ただし、ESGを積極的に進めながら、事業としてどのようにパフォーマンスを上げていくのかという説明がもっとあってもよいと思います。情報開示の面で、投資家がもう少し納得できるような内容になれば、企業価値の向上につながるのではないかと期待します。

芳井 サステナビリティに関する非財務情報とポートフォリオ管理に基づく財務情報は個別には積極的に情報を発信しているのですが、そこの整合性や一貫性、いわゆる一体感が薄いと思っています。例えば私たちの投資基準は、金利の状況などから制限を設けています。けれども、例えば明らかに高齢者や子ども、女性が住みやすい街づくりにつながるのであれば、規定の投資基準を下回っていたとしても投資すれば良いと考えています。社会的意義も踏まえて判断していく。こうした動きが結果として全体の資本効率の向上につながればよいのです。
また、街づくりに関与している以上、社会問題への取組みは私たちに課せられた大きなテーマです。特に空き家対策をどうするのかが大きな課題です。
私たちはこれまで大型団地や街を開発してきましたが、時代とともに、高齢化や空き家も増えています。こうした街をそのままにして、新しい街をつくることに非常に疑問を感じています。その街に戻るのだという自分たちなりの本気度を見せるため、取り組んでいるプロジェクトの一つが1970年代に開発した石川県加賀市「加賀松が丘ネオポリス」の再生です。3,000戸程の規模ですが、空き地や空き家を全て買戻し、最新型の住宅を建てることを検討しています。いわば、街のサーキュラーエコノミーに通じるものです。長期的な取組みになることが想定されますが、住民の高齢化が進み、残された時間が少ないからこそ、すぐにでも始めるべきだと考えました。
文書や言葉で表現してもなかなか伝わりづらいのですが、こうした非財務的な価値を数値化することも必要だと考えています。

社員の実行力の高さが力であり、会社の宝物は人

小池 地域からの信頼が大きな無形財産になるわけですね。御社は、企業理念の第一に「事業を通じて人を育てる事」を掲げており、統合報告書のCEOメッセージにおいても、「人財の育成、獲得は当社グループにとって最重要課題です」とのコメントがあり、人財を非常に重視している企業だと考えています。私自身、資産運用会社の代表としてビジネスを通して利益だけでなく社会の役に立つ姿勢を大切にするよう、社員に伝えてきたこともあり、とても共鳴できるものがあります。

芳井 社内で副業をテーマに議論しましたが、3~4カ月くらいのスピードで解禁した経緯があります。当初は人に教える仕事を副業として認めていましたが、街の再生に関する副業を希望する社員が非常に多くいました。「街の再生に関わりたい」「人のために役立ちたい」と積極的に取り組む姿勢を見たときに、素直に当社の社員は素晴らしいと感じました。
神奈川県の「上郷ネオポリス」もかつて開発した団地の再生を成功させた事例です。儲かるかを切り口にせず、地域にとって良いかという観点で考え取り組んだ結果だと思います。時間はかかりましたが、今は、住民の皆さまにも受け入れていただいています。無から有を生んできた会社ですから、社員の実行力の高さは力であり、この会社の宝物は人です。しかも、行動を変えるべき時には一瞬にして変えられる。こうした企業風土は、しっかり残していきたいです。

小池 実際にアセットを探したりつくったりするのも、人の目利き力が大切ですからね。こうした非財務的な部分に機関投資家として賛同して、それをメッセージとして伝えることも私たちの役割の一つだと感じています。
最後に機関投資家に対して経営者として期待していることやリクエストをご教示いただけますか。

芳井 評価する期間としては単年度ではなく5年単位くらいで見てもらいたいと思います。特に開発物件などは投資期、回収期があり、最大の利益を出すためには単年度での評価は業務上の制約になると考えています。私は中期経営計画の期間の最終年度に最大利益を計上できれば良いと考えています。また、配当金についても下限を130円と設定し、あとは業績連動とし、株主還元を強化しました。長期の株主になっていただける方には手厚く報いたいと考えています。

小池 本日はありがとうございました。

この記事は、投資勧誘を目的としたものではなく、特定の銘柄の売買などの推奨や価格などの上昇または下落を示唆するものではありません。
(掲載日:2023年3月15日)