野村アセットマネジメント

社会的価値を生み出すインパクト投資

コラム第4回│
「社会的インパクト(社会的価値)」を測る(後編)

第4回「社会的インパクト(社会的価値)」を測る(後編)のイメージ

前回のコラムでも記載した通り、「社会的インパクト」をどのように定義して、そのインパクトを「どのように測るか」が重要ですが、そのプロセスを明確にすることも大切です。「インパクト」を定義することで、それを生み出すための手法、その効果の規模、発生する費用(労働や資本)が明確になるからです。今回は、その具体的な例を考えてみましょう。

例:ある支援団体が、開発途上国の子供たちに栄養価の高い補助食品を届けるケース

この団体は、「①開発途上国の子供に、②栄養価の高い食品を、③届けることで、④健康や栄養状態の改善に、⑤寄与すること」を目標にしているとします。このフレーズのみだと、「活動のぼんやりとしたイメージ」しかありません。途上国の子供たちのために活動している団体として頑張っています!という感じでしょうか。

「社会的インパクト」を生み出す
基本のロジックモデル

「社会的インパクト」を生み出す基本のロジックモデル

(出所)『社会的インパクトとは何か』マーク・J・エプスタイン、クリスティ・ユーザス著、英治出版、2015年を参考に野村アセットマネジメント作成

※ 原材料調達から生産・販売に至るまでの物流

この①~⑤に、定性的かつ定量的な観点、つまり第3回コラムでご案内した5つの要素で構成されたロジックモデルを当てはめるとどうなるでしょうか。以下の通り考えることができます。

①:どの地域で、どれくらいの途上国の子供を想定するのか

②:カロリーベースと栄養素ベースをどの程度にし、その頻度はどうするのか

③:届けるまでのロジスティクスや期間はどうするのか

④:子供の状態改善を確認するための測定期間や指標はどうするのか

⑤:確認する指標がどのように変化したら健康や栄養状態の改善に「寄与」したとするのか

このように、各①~⑤の項目に関連した行動を明確にすることは、「社会的インパクト(社会的価値)」を生み出すプロセスを定義することに他なりません。

特に、④「アウトカム(成果)」と⑤「社会的インパクト(社会・経済的変化)」における定義は重要です。この項目に定量的な数値を設定することで、インパクトそのものの大きさも決まってくるからです。具体例としては、「改善状況を把握するための指標を体重とした場合、その1歳児の体重を現在の平均値からどれくらい引き上げることが必要なのか、あるいは1,000人の1歳児に週に1度の補助食品を1年に渡り供給すれば良いのか」といったことです。また、「指標をその地域の1歳児死亡率とした場合は、補助食品を提供することでその地域の1歳児死亡率を〇%低下させる、あるいは、死亡人数を〇人減らす」という定義にすることです。

このように定義が明確となれば、目標から遡って必要な資金額、労働と資本、ロジスティクスの手当を見通すことが可能になるでしょう。死亡率の〇%低下の為には、〇人の1歳児に対して、補助食品の提供を週に2度、1年に渡り与えられるようにする、というような内容です。

注意しなければならないのは、「途上国の子供たちに栄養補助食品を届ける」という目標の定義に留まってしまうことです。これは、「補助食品を届ける」という活動に伴うアウトプットに留まっています。これを、アウトカムにするためには、対象に直接的に及ぶ効果を定義し、測定することが必要です。それが、平均体重を引き上げることであったり、1年に渡り補助食品を届けることであったり、死亡率を具体的な数値として低下させる、といった内容となります。

この④「アウトカム」の継続(積み重なる)で生じる変化を、⑤「社会的インパクト」と考えることが出来ます。つまり、⑤寄与すること、を測ることがインパクトそのものになると考えるのです。ただし、成果を測るためには、コストが発生します。特定地域の子供の体重を定期的に測ることや、1歳児の人口や死亡数を数えることになります。その点で、「社会的インパクト」の測定は、難しい作業を伴うということも認識しておく必要があるでしょう。最終的に、アウトカムやインパクトを上手く測定できず、「社会的インパクト」を上手く測ることが出来ないという事態も想定されます。

「社会的インパクト」は定量的な数値で測ることが重要であることを述べてきましたが、それに関連する非財務情報(死亡率など公的な統計値や企業活動の情報)の開示が十分でないと、「社会的インパクト」の測定が十分に行なえないことになります。この点では、公的な面での統計値の公表や調査の実施、また、「社会的インパクト」を創り出している投資先企業における理解、「インパクト」を測ることが可能となる非財務情報の開示に関するエンゲージメント(対話)を進める必要もあります。