投資先企業の見つけ方(前編)

調査のプロに聞いてみた!

投資信託を運用している資産運用会社には、様々な専門知識を身につけたプロフェッショナルたちが在籍しています。今回は、その1つである「企業調査のプロ」へのインタビューを交えながら、日々実践している投資先企業の見つけ方をご紹介します。

今回答えてくれるのは…
企業調査のプロ!

野村アセットマネジメント株式会社
エクイティアナリスト

食品・日用品セクターの企業調査担当者

Q1.企業調査部の業務内容を教えてください。

主に2つあります。
1つ目は、上場している企業や、その業界について調査・分析を行ない、企業の収益性や成長性、サステナビリティ(持続可能性)を予想することです。
調査内容をファンドマネージャーに報告し、その銘柄を買うべきか売るべきかなどの推奨を行ないます。

投資信託は、複数の投資家から資金を集めて、運用の専門家が債券や株式などに投資・運用する金融商品です。ファンドマネージャーは、それぞれ担当の投資信託があり、運用方針に基づいて投資判断を行ないます。投資信託は1人で運用するのではなく、チームで運用することが一般的です。ファンドマネージャーは、担当する投資信託について投資計画の策定や投資先の最終判断を行なう最高責任者です。

2つ目は、「エンゲージメント」です。「エンゲージメント」とは、「企業との対話」ですね。企業の経営陣やIR担当者に対して企業の価値向上につながるようなアドバイスや提案をすることで、一緒に企業価値の向上を目指していきます。近年、野村アセットマネジメントで強化している取組みですので、これも主な業務の1つになっています。

Q2.どのようにして、投資先の企業を見つけてくるのですか?

私は、大体40社程度の企業を担当しています。一般に公開されているIR情報や財務諸表の分析に加えて、説明会に参加して情報収集したり、社長・会長といった経営陣やIR担当者に取材して意見交換をしたりします。説明会や取材を含めた企業との接触機会は、全企業合わせて大体年間で300回程度くらいですかね。こういった場で得る情報を使いながら、今後の成長が期待できそうな企業を見つけていきます。

「IR(インベスターリレーションズ)」とは、企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な情報を公平に提供する活動を指します。一般的に「IR担当者」は、上場企業における、「IR」領域の業務を担っています。

とても頻繁にコンタクトを取っているのですね。

コロナ禍前は、決算説明会の時期だと1日中、自分が担当している企業の説明会会場を回っていました。リモートが普及した今は、出勤すると1日中、デスクでWEB会議に出席していますね。

どんな意見交換をされるのでしょうか?

具体的には、経営戦略や事業戦略などについて議論します。その議論をベースに、短期・中長期の業績を予想して投資判断に繋げます。
たとえば、企業側から商品のマーケティング戦略について教えて頂けた場合、「その戦略自体が妥当なのかどうか?」「上手くいくのかどうか?」という点を吟味します。また、もしも想定と違う結果になった場合に求められる修正力や変化対応力を備えているかどうかなども評価しています。

私は食品や日用品という身近なセクターを担当していますので、商品を自分で試すことも多々あります。商品力そのものや、「マーケティングが消費者の心にしっかりと刺さっているのか?」といった、消費者目線での評価もしています。

企業と接触するタイミングは決まっていますか?

基本的に、企業取材は四半期毎に行なっています。また、決算説明会や研究開発・新商品の発表会、新しい工場が設立された時の見学会など企業からの情報発信も多くあります。
業務を通して情報が集まってくるので、その企業の社員の方よりも、その企業の来年のボーナス額の予想が出来ます(笑)。業績予想をしていると、「大体来年これくらい利益が出るんだろうな」というところから、なんとなくボーナスが予想できちゃうんです。

すごいですね!的中率はどのくらいですか?

そこそこ当てられています(笑)。
しっかりと従業員に利益を還元されている企業かどうかについても、企業との会話の中で教えて頂けるので、総合的に予想ができます。

Q3.消費者としての目線と、投資家としての目線の違いには、どのようなものがありますか?

消費者としての目線は、食品の場合は「美味しいか美味しくないか」、モノの場合は「使いやすいか使いやすくないか」や「面白いか」、「コストパフォーマンスが良いか」などがあると思います。でも私が買い物に行くと、プライベートなのに投資家目線で収益性と生産効率などを見てしまうんです…。
たとえば新商品が出たら、「この新商品の対象顧客数って日本に何万人いるんだろう?」という目線で、つい商品を見てしまいます。商品には、基本的にターゲット層があって、たとえば「30代・40代の女性」がターゲットだとします。その層が仮に1千万人程度だとしたら、そのうち何%がこの商品を買ってくれるんだろう?と考えながら買い物しちゃうんです(笑)。

商品がセールされていると、どんな気持ちになりますか?

普通の消費者なら単純に嬉しいはずですよね。私の場合、消費者としては嬉しい反面、「これはメーカーとしては、ほとんど利益が出てないな…」と投資家の目線でも見てしまいます。今、いろいろな商品が値上がりしている中で、値上げしたのに結局値引きして販売されていたらメーカーとしては利益が取れていない証拠ですからね。
また、値上げ後の価格の定着力は商品のメーカーごとに差があるので、その辺りも考えながら買い物しちゃいます。

職業病ですね(笑)

私の場合は、身近な食品・日用品セクター担当しているので、こうなっちゃいますね(笑)。
おそらく、自動車セクターの担当者も車に試乗した時「これはどこのメーカーが卸している部品だろう?」という目線で見てしまうでしょうね。
電子機器セクターの担当者から聞く話では、新しいスマートフォンが発売になったら、「スマートフォン分解セミナー」という会があるそうです。部品ごとに、どの企業が作っているのかを確認したり、新しい技術が搭載された部品を眺めたりするための会だそうです。

なんだか、怪しいセミナーに聞こえます…

(笑)
新しい技術の誕生や技術の発展によって部品ごとの市場シェアがどう変わったのかを分析するために、資産運用業界のアナリストが集まって、みんなで1台の新品スマートフォンを分解するセミナーです。こういったところにも色々な情報が隠れているので、面白いですよね。